海外在住でも相続人になれる

海外に住んでいたとしても、法定相続人になることはできます。

海外に住んでいるからといって、法定相続人から外されることはありません。

ただし、海外に住んでいることを理由に手続が簡略化されることはありません。日本国内にいる場合と同じ手続をする必要があります。

しかし、亡くなった方に遺言が無い場合、海外在住の相続人がいる場合に特有の証明書類を準備する必要があります。

海外在住の相続人がいる場合の相続手続き(遺言が無い場合)

海外に相続人がいて、遺言書がない場合の相続手続きは、次のような流れになります。

  • (1)遺産分割協議を行う
  • (2)遺産分割協議書を作成し、海外に送付する
  • (3)海外在住の相続人に特有の証明書類を取得する
  • (4)遺産分割協議書と証明書一式を国内の相続人代表者等に返送

(1)遺産分割協議を行う

被相続人が遺言を残していなかった場合、相続人全員で遺産を誰にどう分けるのかという話し合いを行います。

この話し合いを遺産分割協議といいます。

相続人が海外に住んでいる場合も、この遺産分割協議から相続手続きはスタートすることになります。

遺産分割協議は、相続人全員で行わなければなりません。

協議の際、できれば対面で行うことが望ましいですが、毎回全員が顔を合わせて行う必要はありませんので、海外に住む相続人がいる場合は、国内の相続人と電話やメールでやりとりをすることになるでしょう。

(2)遺産分割協議書を作成し、海外に送付する

相続人全員の話し合いがまとまったら、遺産分割協議書を作成します。

遺産分割協議書には、話し合いで決まった遺産分割の方法を記載し、相続人全員が署名・押印をします。

海外にいる相続人には、遺産分割協議書を郵送して署名してもらうことになります。

海外への郵送となりますので、日数がかかること、日本とは異なる郵便事情を考慮しなければなりません。

なお日本から海外へ書類を郵送する際、日本郵便の国際郵便サービス「EMS」などを利用することになります。

海外へ遺産分割協議書を送る際に考慮しておくこととしては、次のようなことが挙げられます。

  • 受取人の住所、氏名、内容物を送付先の国で通用する言語で詳しく明瞭に記載する。
  • 送付先の国によっては、手書きの送り状では届かない場合がある(米国およびヨーロッパ等)。この場合、事前に通関電子データを送信する必要がある。
  • 世界状況によりEMS(国際スピード郵便)が差出不可・停止となる国や地域がある。
  • 日本国内では20万円以下の荷物については通関の必要はないが、海外到着後は通関の手続きをとる。
  • 相手国に荷物到着後は各国の郵便事業体が配達する。

(3)海外在住の相続人に特有の証明書類を取得する

相続人が全員国内にいる通常の相続手続きの場合、遺産分割協議書に各相続人が署名・押印します。

遺産分割の対象となっている財産が預貯金や不動産の場合、遺産分割協議書と合わせて印鑑証明書の提出が必要となります。

不動産の場合は、さらに不動産を相続する人の住民票の提出も必要となります。

しかし海外在住の相続人の場合、印鑑証明書や住民票がありませんので、それらの書類を準備することができません。

この場合、印鑑証明と住民票に代わる書類を準備することになります。それが次の書類になります。

  • 印鑑証明の代わり→サイン証明
  • 住民票の代わり→在留証明

したがって海外在住の相続人は、サイン証明と、場合によっては在留証明も準備することになります。

これらはいずれも日本の海外の大使館、領事館で発行してもらいます。

(4)遺産分割協議書と証明書一式を国内の相続人代表者等に返送

海外在住の相続人が遺産分割協議書にサインし、サイン証明を取得(必要に応じて在留証明の取得)したら、書類を日本国内の相続人代表者等に返送します。

この場合の郵送も国内より時間がかかりますので、この点を考慮しておきましょう。

遺産分割協議書が国内の相続人の手元に届き次第、協議書の内容に沿った相続手続き(不動産の名義変更、預貯金の解約払戻しなど)を開始することになります。

海外在住の相続人がいる場合の相続手続き(遺言がある場合)

このように、海外に相続人がいて遺言書がない場合の相続手続きは、海外在住の相続人と実際に遺産分割協議書のやりとりをするため、サイン証明や在留証明の取得の負担、時間がかかること、郵送途中での紛失の危険など、様々な手続き上の困難があります。

一方、遺言書があれば、遺言の内容に沿って相続手続きを進めることが可能です。

海外へ遺産分割協議書を送付する手続きなどは不要なため、スムーズな相続手続を図ることができます。

海外に相続人がいる場合、遺言書を作成する際のポイントは次のとおりです。

  • ①遺言執行者を指定しておく
  • ②遺産分割の内容を工夫する

①遺言執行者を指定しておく

遺言執行者が遺言書で指定されていた場合、遺言に書かれている遺産分割の手続きは指定された遺言執行者が行います。

海外に居住する相続人がいる場合、この遺言執行者については日本国内に住む他の相続人か、行政書士などの専門家を指定しておきます。

例えば海外在住の相続人が遺言によって預貯金を相続した場合、預貯金の解約手続きは遺言で指定された遺言執行者が行いますので、相続人の印鑑証明は必要ありません。

遺言執行者が解約手続きをし、相続人の預金口座に振込みをすることになります。

海外在住の相続人がサイン証明を取得することなく手続することが可能となるのです。

また、遺言書があれば、遺産分割協議書を郵送してサインするような書類のやりとりはありませんので、海外に郵送する途中での書類紛失の危険や、やりとりに長い時間を要することはなくなります。

②遺産分割の内容を工夫する

海外在住の相続人がいる場合、相続手続きを考慮した遺産分割内容の遺言を書いておくことも有効な手段です。

例えば相続財産が不動産の場合は、相続登記の際に住民票に代わる在留証明が必要となります。

在留証明は前述した通り在外公館で発行してもらいますので、飛行機で行かなければならないような距離に在外公館がある場合は、相続人の負担がかなり大きくなります。

したがってそのような場合には、次のような内容の遺言を書いておくことで、負担を少なくすることができます。

  • 不動産は日本国内に居住する相続人に相続させる
  • 預貯金は海外在住の相続人に相続させる

このような遺言書があれば、海外での証明書取得の手間が省くことができ、海外在住の相続人の負担を少なくしつつ、相続全体が安全でスムーズに進むことが期待できます。

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